繊毛虫のアニメ批評ブログ

簡潔な作品論を定期的に投稿します。

『ゆるゆり♪♪』:抑圧される時間性

放送期間:2012年7月-9月、全12話

制作:動画工房

監督:太田雅彦

原作:なもり『ゆるゆり』既刊17巻(一迅社『コミック百合姫』にて連載中)

 

作中での時間が年単位でループしていて、キャラたちは基本的に年をとることがないという設定は、前作『ゆるゆり』(2011年)の第8話で、第1話から1年が経過したにもかかわらず誰も進級していないという形で明らかになりますが、そうした設定に対するメタフィクション的な言及は、間接的なものであれ直接的なものであれ、第2期の終盤まで皆無でした(アニメ公式サイトでは多少触れられていますが)。しかし、本作第10話で描かれる修学旅行においては、移動中のバスや清水寺の場面など、第1期第10話の修学旅行回と全く同じカットおよび台詞が複数用いられており、多くの視聴者はかなりの違和感を抱くと思います。その違和感は、クラスのバスが宿泊先に到着した直後、京子がホテルの特長を結衣に説明した後で、なぜ一度も訪れたことがないはずの場所についてそんなに詳しいのかふたり揃って頭を捻る場面、そして、京子が昨年同様にあかりとちなつのお土産として購入した昨年と同じ木刀を部室で手渡す際に、既に全く同じ木刀が床の間に置かれていることに4人が気づく場面で、これはある種のメタフィクション的な遊びなんだ、という了解に着地するかもしれません。

 

しかし、そうした物語の時間構造への自己言及は、続く第11話でさらに込み入ったものになります。誤ってタイムマシンに乗り1年前の時間軸(中学校に入学した年の4月上旬)にタイムスリップしてしまったあかりは、存在感のなさを克服するため、過去の失敗を未然に防いだうえで未来に帰ろうと思い立ちます。しかし、そうした過去改変をすると、友だちと過ごした楽しい思い出も少なからず失われてしまうのではないか、という姉の言葉を受け止め、結局は過去に大きく干渉することなく未来に戻ります。最終的には、以上の出来事はすべて京子の作った紙芝居の中のお話として回収されるのですが、こうした一連の流れは結果的に、作中の時間ループ構造を視聴者には強く意識させつつも、登場人物たちには全く自覚させないという温度差を強調することになるのではないでしょうか。

 

このようなループ構造は原作でも採用されており、作者はそれを「サザエさん方式」と呼んでいるようですが、こうした作品の枠組みは何よりも、中学生たちの性的交渉を(基本的には)伴わないゆるやかで多項的な百合関係の網目に、将来性が全く欠如していることを示唆しているのではないでしょうか。もし彼女たちが年をとるのであれば、周囲の友人たちが異性との様々な関係を取り持つようになる中で自分たちの性的指向と社会における立場により自覚的に向き合うことになりますが、現在の日本の社会状況はレズビアンの方たちにとって過ごしやすいものとは決して言えません。そのように考えると、本作第10話「修学旅行R」と第11話「時をかけるあかり」が前景化する作品のループ構造および、それに対するキャラたちと視聴者との間の認識のギャップは、明るい戯れに満ちた雰囲気の裏側で非常に真剣な問題を提起しているように思えます。